2012年2月22日水曜日

スターウォーズに見る師弟関係

「Darth Plagueis(ダース・プレイガス)」を読み終えた。今回はその内容と、そこに見られる武術世界の師弟関係の類似性について述べたい。Darth PlagueisはEpisode 3でPalpatine(パルパティーン)がAnakin(アナキン)をフォースの暗黒面にそれとなく誘惑する際に言及される人物だ。



フォースを使って命を操れるだけの力を持つ事で、Darth Plagueis the Wise(賢者プレイガス)とまで呼ばれていながら、最終的に寝ている最中に弟子に殺されてしまった悲劇として語られるが、パルパティーンの表情から彼が自分の師の話をしている事が伺えるシーンだ。そんなダース・プレイガスと弟子のダース・シディアス(パルパティーン)の物語がこの本。





スターウォーズの小説は無数にあるが、その中でもこれはダントツの出来。何が面白いのかと言えばスターウォーズの宇宙を舞台にしながら、基本はポリティカル・スリラーに近いからではないかと思う。映画の新三部作は少年アナキンがジェダイとなり、最終的にフォースの暗黒面の誘惑に負けてダース・ベイダーとなってジェダイを滅ぼす物語だが、同時に惑星ナブー出身の共和国元老院議員パルパティーンが権力の座に上り詰める物語でもある(Episode 1でSupreme Chancellor、元老院最高議長。Episode 3で皇帝を名乗るまで)。小説では17歳のパルパティーンがプレイガスにその才能を見出されてシスの教えに弟子入りし、裏でその修行を積む傍ら、表の社会で議員となり、どんどん政治家として力を身に付けて行く過程を描く。そう言う意味ではタイトルこそ、ダース・プレイガスだが、実質はパルパティーンの物語と言っても良い。

映画で言及されているようにプレイガスはシディアスに睡眠中に殺される。よって物語もプレイガスの死から始り、そこから遡って、プレイガスの死で終わる。ここで付け加える必要があるのが、シスの教えは常に師1名、弟子1名のRule of Twoと言う教えに基づいており、弟子は師を超えた段階で師を倒して、自分が改めて師となると言う流れ。ジェダイが常に多数のグループを作っているのに対し、シスはベースが利己主義な為、同じように多数いては仲間内で潰し合ってしまうので敢えて師弟2名と言う状態を保っていると言う設定だ。小説も最初の段階でプレイガスが自分の師を殺害する描写がある。そこから弟子となる候補を探していく過程でパルパティーンに巡り合う。

ジェダイもシスもフォースの担い手でないとなれない。ジェダイは幼児の頃から世俗的な物事に執着しないようジェダイの寺院で鍛えられ、シスは才能を認められた段階で入門が許されると言う流れ。Episode 3でアナキンがシディアスに弟子入りする場面があるが、跪いて教えを請い、そこで新しい名前を与えられて入門式が完了する。これは中国武術の拝師に感覚的に良く似ている(名前が変わる事は無いと思うが)。中国武術の場合、一般の生徒と弟子、そして後継者となる弟子とでは教えの内容が異なるのだが、その選ばれる過程で接する教義や技が変わって行く。小説でシスの教えについて、一口にフォースの暗黒面と言っても理解のレベルは様々であるとプレイガスが語る箇所があるが、最初に連想したのが武術の世界だった。教えと言う意味ではなかなか良い事を言うなと思ったのが次の箇所である。

But holocrons contain knowledge specific and idiosyncratic to each Sith who constructed them. Real knowledge is passed by Master to apprentice in sessions such at this, where nothing is codified or recorded - diluted and thus it cannot be forgotten. There will come  a time when you may wish to consult the  holocrons of past Masters, but until then you would better not be influenced by them. You must discover the dark side in your own way, and perfect your power in your own fashion. All I can do in the meantime is help to keep you from losing your way while we hide in plain sight from the prying eyes of our enemies

(拙訳: しかしホロクロンはそれを作ったシス個人、特有の知識が蓄えられている。本当の知識とは師から弟子にこのようなセッションを通して伝授されるものだ。明文化もされず、記録もされない、よって薄められる事もないので失われる事もない。いずれは過去のマスター達のホロクロンを参照したくなる時も来るだろう、だがそれまでは影響を受けない方が良い。暗黒面を自分の方法で発見し、その自分に合った形でその力を自分のものにしなくてはならない。当面、私に出来る事と言えば、我々が敵から隠れて過ごす間、お前が道を見失わないよう手伝う事ぐらいだ)

ここで述べられている師弟関係の教えの伝授についての記述はしびれた。武芸においても道場の中で体術を練っていれば良いと言うものでは無い。一般の生徒はそれで良いが、弟子ともなれば師と過ごす一時、一時の中でそれとなく伝わる空氣のような教えにも耳を澄まさなくてはならない。これは武芸の世界でもよく言われる事だ。また他の箇所でシディアスがプレイガスに一人前のシスになるのにどのぐらいかかるのかと尋ねて、「最低10年」、と言われる箇所も実に興味深い。技を伝え、心を伝え、様々な知識を伝える。この辺りの時間のかけ方が読んでいて実にリアルに感じられるのがこの本の魅力だ。

この他にもスター・ウォーズの映画や小説から様々なキャラクターが登場し、物語を盛り上げて行く。方々に好きな人間にはたまらないキャラ同士の会話などが入って実に面白い。これを読んだ後にEpisode 1を観たら、映画の表で描かれていない様々なドラマに思いを馳せてしまう事だろう。Episode 1はシリーズの中で最も微妙な出来であるが、この小説を読んだ後なら3Dと久しぶりの大画面を求めて映画館に足を運んでも良いかと思わなくもない。


 取り敢えず小説を再読しながら来月の映画公開を待つとします

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